住宅のボリュームを路地からつくる

路地の風情に寄り添う住宅設計

住宅設計において、現地調査は敷地の寸法や方位、周辺環境を確認するだけでなく、その場所が持つ「空気感」に深く触れる重要なプロセスです。単なる物理的な要素を超え、その土地にどのような住宅が「似合う」のかを見極めることが、デザインの核となります。

今回手がけた「寺本の家」は、風情ある石畳の路地に面しています。日常的な車の往来は少なく、散歩する人々の足音が静かに響く、穏やかでゆったりとした時間が流れる場所。国道からわずか一本入るだけで、別世界が広がっているような特別な空気を感じました。

初めて敷地を訪れたときに感じたことは、この路地が持つヒューマンスケールに対して住宅のボリュームをどうすべきかということ。大きすぎる家は、この静かな路地に圧迫感を与えてしまう。そこで「2階リビングかつ平入り」の提案が自然に浮かび提案をおこなったところ、クライアントもそのアイデアに共感していただきました。クライアントも現地に訪れたときに同じことを感じていたようでそこからプランニングはスムーズに進んでいきます。


控えめでありながら存在感のあるデザイン

完成した住宅は、控えめながらも周囲の景観に溶け込みつつ、しっかりとその存在を主張するデザインに仕上がっています。石畳の路地に面したこの家は、路地の雰囲気を壊すことなく新たな風景をつくる住宅となっています。

私たちが大切にしているのは、単に周囲に合わせるだけではなく、そこに「新しい関係性」を生み出すこと。住宅は住む人々の暮らしの器であると同時に、周囲の風景と共鳴し合う存在です。その場所が持つ歴史や雰囲気、環境にしっかりと根を下ろしつつも、独自の存在感を持つ住宅をこれからも設計していきたいと考えています。